大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和45年(行コ)21号 判決 1972年8月30日

吹田市出口町一四番地の三二

控訴人

細田麗子

右訴訟代理人弁護士

鈴木康隆

稲田堅太郎

右訴訟復代理人弁護士

小林保夫

茨木市片桐町六の一一

被控訴人

茨木税務署長

都倉太郎

右指定代理人検事

竹原俊一

訟務専門職 遠藤忠雄

大蔵事務官 中西一郎

同 樋口正

同 村上睦郎

右当事者間の所得税及び加算税賦課決定取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人の昭和三六年分所得税について昭和四〇年六月一〇日付でなした課税所得金額を金三、〇六八、九〇〇円、確定納税額を金九一五、〇六〇円とする所得税決定処分および無申告加算税金二二八、七五〇円の賦課決定処分をいずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実に関する陳述ならびに証拠の提出援用認否は、控訴代理人において「本件土地家屋の売却による控訴人の収入金額は金六六〇万円である。すなわち、控訴人は、本件土地家屋の売却を不動産周施業者の訴外樋野誠次に委任していたところ、同訴外人からは売却価額を金六六〇万円と聞かされており、かりに同訴外人が買主の山種株式会社から右の他に立退料名下に金四四〇万円を受領していたとしても、控訴人はそれについて何も知らされておらず、これを同訴外人から受領した事実もないのであつて、右金員は、本件土地家屋で従来控訴人とその夫細田七太郎とが営んでいた理髪店を退職することとなつた職人らに同訴外人から直接支払われたか、そうでなければ同訴外人が着服費消したとしか考えられない。次に、本件土地家屋の取得価額は、金一六五万円余りである。すなわち控訴人および夫七太郎は、理髪業をするために、本件土地の購入費、家屋建築費、理髪器具等購入費として金六五万円余を訴外西村時秋より借受けていたのであつて、このような場合には理髪器具等の代金を含めた右金六五万円余を本件土地家屋の取得価格とみるべきである。さらに控訴人は、その後同訴外人の申入れにより、本件土地家屋を同訴外人の名義とし、これを同訴外人が滋賀相互銀行より借受けた金一〇〇万円余りの担保とすることを承諾したところ、同訴外人は右借入金の返済をしないので、やむなく控訴人が代つて右借入金一〇〇万円余を返済した。この金一〇〇万円余も、本件土地家屋を控訴人のものとして確定的にするための費用であるから、本件土地家屋の取得価格に計上すべきである。」と述べ、甲第四、第五号証を提出して、当審証人細田七太郎の尋問結果を援用し、乙第一五号証の認否を「控訴人名下の印影は認めるが、控訴人作成部分の成立は否認する。その余の部分の成立は不知。」と改め、被控訴代理人において「甲第四号証中、西村年秋作成部分の成立および同人名下の印影は否認する。その余の部分の成立は不知、第五号証の原本の存在ならびに成立は認める。」と述べたほかは、原判決事実摘示と同一(但し、原判決三枚目裏末行の末尾に「なお、右売買につき契約書を作成するに当つて、土地につき売買代金を三一二万円とする契約書、建物につき売買代金を三四八万円とする契約書、ならびに控訴人(原告)の夫細田七太郎が本件家屋で経営していた理髪業の当時の従業員福岡晟外三名に対する本件家屋明渡の賠償金四四〇万円についての契約書の三通の契約書が作成されたが、前記福岡晟外三名に右金四四〇万円が支払われた事実はなく、右賠償金四四〇万円の契約書は、収入金額の一部を隠ぺいするために作成されたものと考えられる。」を付加し、五枚目裏五行目の「栗本善三」を「栗山善義」と訂正)であるから、これを引用する。

理由

当裁判所は、控訴人の請求を失当として棄却すべきものと認めるのであつて、その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決理由に説示するところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決七枚目表終りから二行目の「したこと」の次に「(立退料名下で支払われた金四四〇万円については、のちに詳しく認定する)」を付加する。

2  七枚目表終りから二行目、八枚目表七行目および九枚目表四行目に各「証人細田七太郎」とある次に、いずれも「(原審、当審)」を挿入する。

3  七枚目裏二行目の「尤も」を、「控訴人は、右認定に反し、売買代金は金六六〇万円であり、かりに訴外樋野が山種株式会社からそのほかに金四四〇万円を受領しているとしても、それは同訴外人から七太郎の理容職人らに支払われたか、そうでなければ、同訴外人が着服費消したもので、控訴人はこれを取得していないと主張し、」と改める。

4  八枚目表八行目の「からすれば」から同表末行までを、「さらにまた、乙第四、第五号証の作成名義人のうち原審当審証人細田七太郎の証言により、七太郎方の理容職人であつたと認められる福岡晟、岩間純一、増田修、ならびに前示乙第一一号証により、七太郎方の理容職人ではないが、以前に控訴人の子の豊を養子に迎える話の出たことがあつたと認められる岡本房次郎(これに反する原審証人細田七太郎の証言は措信しない)の姓および名ならびに住所を、樋野が、控訴人あるいは七太郎から教えられもしないのに知つていたというようなことは、他にそれなりの理由の存在を認めうる資料のない本件の場合、にわかに肯定しがたいところであり、乙第四、第五号証は、控訴人または七太郎がその作成に関係した疑いが極めて濃厚で、原審当審証人細田七太郎の乙第四、第五号証が作成されていたことは全く知らなかつた旨の供述よりも、前示乙第一〇号証(樋野誠次の質問応答書)の樋野が七太郎に言われて作成したとの旨の供述記載の方がはるかに信を措きやすく、右乙第一〇号証および原審証人福島光春の証言により成立を認める乙第四号証中、山種株式会社および樋野誠次作成部分、同第五号証中、同人作成部分(乙第四、第五号証中岡本房次郎、福岡晟、岩間純一、増田修作成名義の部分は偽造と認める。前示乙第二号証、および原審証人福島光春の証言によつて原本の存在ならびに樋野誠次郎作成部分の成立を認めることができ、その余の部分(控訴人作成部分)は、原審当審細田七太郎の証言により控訴人名下の印影が控訴人の実印によるものであることが認められ、同証人の証言(原審当審)中措信できない部分のほかに反証はないから、成立の真正を推認できる乙第六号証、ならびに前示乙第一号証および原審証人福島光春の証言によると、売買代金一、一〇〇円は、三〇〇万円、三六〇万円、四四〇万円の三回に分けて支払われ、このうち最後の四四〇万円は、吹田駅前の樋野誠次の事務所で、同人の立会のもとに、山種株式会社社員の福島光春から控訴人の代理人である七太郎に対して、同人から第四号証の契約証書、第五号証の領収書、第六号証の原本である念書の交付を受けるのと引換えに支払われた(もつとも、福島は、その場で、山種株式会社の関連会社である山種証券株式会社から割引債を買入れるよう勧誘し、これに応じた七太郎から右四四〇万円を預つて帰つた)ことを認めるに十分であり、この認定に反する原審当審証人細田七太郎の証言は措信するに足りないことからすると、細田七太郎は前記乙第四ないし第七号証の存在を十分知りながら(むしろその作成に関与しながら)、これらの書面に記載された金額と一致する金額を、本件土地家屋の売買代金の一部として、山種株式会社から直接に受領したものであることが明らかであつて、乙第四ないし第七号証は控訴人が本件土地家屋の売買により金一、一〇〇円を取得したとの前認定を妨げるものではない。」と改める。

5  九枚目表五行目の次に、行をかえて、次のとおり付加する。「控訴人は、理髪業をするために、土地購入費、家屋建築費、理髪器具等の費用として金六五万円を訴外西村時秋より借受けたものであるから、理髪器具等の代金も含め右金六五万円を本件土地家屋の取得価額とみるべきであると主張するが、控訴人主張の理髪器具等が取引通念上本件家屋とともに一箇の資産とみなしうるような関係にあり、かつ現実に一箇の資産として譲渡せられたような場合には、理髪器具等の取得費用を、これを含めた一箇の資産としての家屋の取得費用に計上する余地も考えられないわけではないが、本件の場合には、当審証人細田七太郎の証言によると、控訴人は、規模を縮少して他で理髪店を営むべく、理髪器具等を本件家屋から搬出し、本件土地家屋のみを売渡したことが認められるのであつて、理髪器具等の取得費用をも本件土地家屋の取得価額に計上すべきであるとの控訴人の主張は採用できない。

控訴人は、また、本件土地家屋を担保とする訴外西村時秋の銀行借入金を控訴人が代払いした金一〇〇万円余も、本件土地家屋を確保するための費用であるから、本件土地家屋の取得価額に算入すべきであると主張するけれども、控訴人がかりに右一〇〇万円余を支出したとしても、それは控訴人が本件土地家屋につき同訴外人のために担保権を設定することを認めたことの結果として生じたことがらにすぎず、また控訴人は同訴外人に対して弁済額と同額の求償権を取得することにもなるのであつて、たとえその求償権が現に取立不能の状況にあるとしても、本件土地家屋の譲渡による譲渡所得を算出するにあたり、右第三者弁済の出捐額を取得費用とみることはできず、控訴人の右主張は理由がない。」

6  一一枚目一〇行目末尾の「である」の次に「(なお、かりに、取得金額が控訴人主張のとおり金一六五万円であり、その内訳を、控訴人に最も有利になるように全部土地であると仮定し、取得時期を全額昭和二五年六月であると仮定してみても、取得価額は前記の理由によりその二・二倍の三六三万円となり、収入金額一、一〇〇万円から右三六三万円ならびに譲渡経費五〇万円と特別控除額一五万円を差引いた残額六、七二〇、〇〇〇円の二分の一に相当する金三三六万円が課税所得金額となり、被控訴人の認定した金三一五万八九一七円を上廻ることになる)」を付加する。

すると、控訴人の請求を棄却した原判決は正当で、控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮川種一郎 裁判官 林繁 裁判官 平田浩)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例